10 進化要因

進化の最大の要因は不安定性である

変化

進化(学)の最大の問題は、「進化とは何か?」「なぜ進化するのか?」というものです。これは進化の核心とも言えるため、12進化の定義と私の進化論においても再度検討を加えます。ここでいう「なぜ進化するのか?」ということは、いわゆる自然淘汰や用不用説などの直接的な要因ではありません。

生命=生物は進化しあるいは退化消滅し、発生でも代謝でも常に時間とともに変化しています。一見、何億年と変化していないようにみえるシュミセンガイでも個体発生し代謝し変化しています。変化しなければ進化も発生もありません。この変化する原動力は何か?というのがこの問題の核心です。私は変化を、進化の大前提としての要因あるいは原因と言っています。

では変化するとは一体どのようなことなのでしょう。変化しない物質はあるのでしょうか。まず、変化しないものとしての状態である絶対零度を考えてください。この絶対零度の世界では蛋白質も変化しないと言われているくらい静的な世界のはずです。しかし量子力学の不確定性原理ではこの状態でも零点振動がありこれを零点エネルギーといい、運動=変化が生じています。

つまり我々の住む世界は常に変化する、変化があるということです。

生物はこれまでの歴史で絶対零度までの情況になったことはなく、常に変化してきました。宇宙や地球も常にその姿を変えてきました。つまり変化してきたのです。よって常に変化してきたことは確実で、変化することは基本法則だといえます。

物理学的に変化というのはエネルギーを伴う時間的変化です。哲学的にも時間、変化はいろいろ議論されていますが、「運動は時間と空間の本質である」(レーニン)というのが妥当でしょう。この運動が変化と捉えることができます。

ですから、生命の範囲では変化=時間といって間違いなさそうです。そして生命の変化には上に上げたように進化も退化も消失も、個体発生も個体の死滅もあります。そのような変化の一つが進化なのです。

さらに時間の経過とともに変化するのは宇宙の(少なくとも銀河系あるいは地球の)法則であるともいえるようです。それゆえに生命と共通の原則といえます。換言すれば、生命の存在する範囲における地球において変化しないものはないと言うことが出来ます。

 進化の様式=型

さて、ダーウィンによって生物の種は変化(進化)するとされ、適応放散や自然選択(自然淘汰)がその原因として提唱され、その後、個体発生と系統発生の関係、獲得形質、などが主張されてきました。これらこれまで提唱されてきた進化の要因は、生物の進化した姿(結果)がどのような仕組み(方法)で行われるのか、つまり進化の様式の問題です。それは、前に示したように一定の範囲における法則です。これを私は「進化の要因(原因)」に対して「進化の様式=法則」と考えています(これは11の進化の様式でまた検討します)。如何でしょう?

例えば獲得形質があるから変化が起こり進化するのではなく、生命に変化がおこるので獲得形質などの要因が働くといえるのです、この理解が妥当だと私は考えています。そして獲得形質によらない進化もある訳です。ただし、生物は常に環境の影響を受けていることも忘れてはなりません。

 

変化を引き起こす原因

結論から言えば変化し進化する原動力は不安定性であると私は考えています。不安定であるから安定化する作用が働くと言うことです。この安定化への動きを担保するのが生命においては体制の原則です。

しかしどのように高い安定性を得ても、完全な安定はないし、それは全く同じものがありえないのとどうようです。これは、物理学における「宇宙は不安定である」という原理、さらに物質の差異性(同じものは存在しない)のとも通じる問題です(7変異性についての議論を参照してください)。

このようなことから私は生物の進化史と現在の姿、そして私の研究結果、地球や宇宙の比較から、進化の要因をつぎのような過程があると結論しました。

1 変化と変異性:生物は自然界、物質界と同様の基本的原理として変化し変異する性質をも本来と持っている。

2 変化と変異性は、より安定した状態へ向かう傾向をしめす。これも自然界、物質界と同様の基本的原理です。

3 変異と安定状態は多様で、完全な安定はない(必ずなんらかの不安定要因を含む)。生物において不安定要因を含みながら一応の安定状態を維持する機構が、周期性、集団性、対称性(平衡、バランス)そして相補性など体制の原則です。これらは生物それぞれに固有の性質として生物の多様性が生れるのです。このいずれも地球から受け継ぎ取り入れた要素と考えられます

4 よって進化は生命=生物の存在する限り進むのです。

生命の変化と変異性

私は自分の仕事を振り返り、そして生物の進化史と現在の姿から「7変異」で示したように「変化する」ことと「変異する」のが基本原則であることを確信しました。その概略はつぎのとおりです。

生命=生物はその起源いらい今日まで常に変化してきました。そして同じ時代をみると非常に多様な変異を示します。

変異性の問題は、私が研究したエナメル芽細胞において、同じ分化時期、同じ機能を果たしているエナメル芽細胞を比較しても全く同じ形態の細胞はありません。教科書に描かれているのは抽象的な想像図なのです。これは組織でも器官でも個体も種でも同様です。

つまり同じ時間帯には完全に同じものは存在しない、これが変異性の基本です。

ですから変化は時間をともない、いっぽう変異はある時間の断面における差異なのです。「2用語」の項で触れましたが時間を伴う前者の研究領域を進化学とするなら後者は比較解剖学です。

そして生物=生命では、生命=生物は変異性を持って変化して今日に至ったということができると考えます。

この変異性に関して私は、生命=生物では「同一物不存在」という法則がなりたつと考えます。ただ物理学や化学では同じ物体と仮定しないと法則が成り立たないのも事実です。これは生物に限定するのか地球や宇宙も同じであるかについてはいまのところ断言できませんが、私は宇宙でも地球でも基本的に同じだ、と考えています。

以上のことから変化し変異するのは生命=生物の根本的原則であり、それ故に進化が生ずることが分かります。

 不安定と安定の根拠

以上のように考えると、進化の原因は地球規模、宇宙規模=物質界の原因に基づいていることに気がつきます。これは、宇宙がなぜ進化(宇宙の歴史を進化とするかどうかの問題は進化の定義で触れます)するのか、という疑問と一致しているということです。現在の宇宙の研究は「宇宙は不安定な存在である」と言う命題でわかるように、言い換えると物質は不安定な存在である、ということに尽きると私は考えています。

身近な研究の例をあげると、歯をつくるアパタイト結晶を電子顕微鏡で観察すると、綺麗な分子配列、つまり結晶格子像が浮き出てきます。つまり、規則的そして対称性のある構造なのです。つまり平衡状態であり安定的状態であると言うことです。

しかし、よくよく観察するとその中に格子欠陥といわれる異常な原子配列がほんのわずか見出すことが出来ます。つまり安定で平衡状態とみえてもなんらかの不安定性を抱えている、ということです。

そして生命=生物もまた基本的には不安定な存在ですから常に安定化する方向へ向かっているということです。生物のより安定化にむかった変化が進化(地質学的時間)、個体や細胞の一生(ほぼ1万年以内)なのだと理解できます。

 安定的存在とはなにか

物質はよりすくない容積で最小のエネルギーで維持できる安定した集合体へ向かいます。例えば水滴がよくその例に挙げられます。

これは生物も同様の原則であり、遊離した細胞などが基本的形は球状に近くなります。その例が、ヒトの赤血球や白血球などが球状に近いのは安定性のためであり、上皮が六角形状となる(接触面が平滑になるため正確には多角形だが、六角柱状と帰されていることが多い)のは細胞接着によるより安定的形態のためと考えられます。六角柱状の細胞形態は上皮細胞以外にも生体にはたくさん認められます。

この様にして生体ではより安定性を保つような機構があるといえます。

 つまり、生物は不安定な存在である、よって不安定から安定へ常に変化する、これが進化(そして個体発生)の本質的要因である、そしてより安定な状態は体制の原則(とくに対称性)によって担保されると私は考察しています。

つまり、生物は不安定な存在である、よって不安定から安定へそれが進化の本質的要因であると私は考察しています。